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イギリスのEU離脱問題で揉める原因をわかりやすく解説②

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前回に引き続きイギリスのEU離脱の解説。

今回は現在一番もめている「北アイルランド問題」についてお話します。これが分かってるとニュースで流れるイギリスのEU離脱問題の本質がぐっと分かりやすくなります!

 

 

[目次]

 

 

前回の投稿でイギリスのEU離脱問題を理解する上で重要な2つの知識をご紹介しました。

その2つとは

 

1) イギリスで一般的な宗教は(プロテスタント系の)イギリス国教会である

2) EU離脱問題とは「イギリス連合王国のEU離脱問題である」

 

です。

詳しくは前回の記事をご覧ください。

 

 

この2つの問題、「宗教」と「国家体制」を理解していると、イギリスのEU離脱問題がなぜこんなに揉めているのかが、ぐっと分かりやすくなります。

なぜかというと、この2つの問題が同時にぶつかりあっているのが、正に現時点の問題の根幹「北アイルランド問題」だからです。

 

北アイルランドってどこにあるの?

恐らく多くの日本人にとって北アイルランドというのは「名前は聞いたことあるけど、よく分からない国」だと思います。

ちょっと地図で見てみましょう。

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<a href="https://www.ac-illust.com/main/profile.php?id=hkUK4XZk&area=1">ちゅん</a>さんによる<a href="https://www.ac-illust.com/">イラストAC</a>からのイラスト

 

 

皆さんが思っている「イギリス」という国ですが、実はこの地図のように

 

イングランド

ウェールズ

スコットランド

アイルランド

 

という4つの国からなっています。正に「連合王国」なわけです。

そしてこの問題の北アイルランドというのは、他の国のように地続きではなくアイルランド島という大きな島にあります。その北側が「北アイルランド」、南側が「アイルランド共和国」に分かれています。で、その北側の「北アイルランド」だけが「イギリス連合王国」に所属しているという訳ですね。

そしてこの地図には載っていませんが、北アイルランドの南側に「アイルランド共和国」という国があります。ですが、これは別の国なのです。イギリス連合王国にも所属していません。

 

アイルランドの国境問題

と、ここまでアイルランドという国の地理的な構造を説明してきました。

・・・が、うーん。ややこしいですね(笑)。

日本で言えば、北海道の北半分は別の国で、南半分は日本、みたいな感じでしょうか。しかも、その間には物理的な国境(壁とかゲートとか)がないのです。ちょっと日本人には想像がつかない世界ですね。

ただ、それが当のアイルランドの人たちにはスッキリしているかというと、それがそうでもないのです。というか、スッキリしていないから揉めているのです。

 

そもそもなぜ「北アイルランド」と「アイルランド共和国」に分かれているかと言うと、宗教が違うからです。

同じキリスト教ではあるのですが、北アイルランドはプロテスタント、アイルランド共和国はカトリック。なぜ同じアイルランド島なのに南北で宗教が違うかというと、北側はイギリスと距離が近いので、イギリスのプロテスタントの影響を受けやすかったからです。

もっと、露骨に言えばイギリス人が侵入して来たもので、中世においてはイギリス人はアイルランドを植民地のように考えていました。ですから、イギリスとアイルランドの間では昔から摩擦が絶えなかったのです。

ちなみに、ウェールズやスコットランドとも一応別の国(自治領)になっているので、それぞれの間でも摩擦がない訳ではありません。ただ、他の国が長い間イギリスと一体化しているのに対し、アイルランドは比較的統一の歴史が浅いため顕著に揉めているという感じです。

 

ジャガイモ飢饉でアイルランド人はイギリスに見捨てられた

ちなみに、イギリスとアイルランドの対立のわかりやすい事例として、1845年に起こったアイルランドの「ジャガイモ飢饉」という出来事があります。

これは当時アイルランドで主食だったジャガイモが病気になってしまい凄まじい不作になったため、アイルランド全土が飢餓状態になりました。ところがそんな中でもイギリスに送るための小麦は生産されており、それをアイルランド人は食べることができなかったのです (イギリス人貴族が土地の所有者であり、アイルランド人は小作人として使用されていたから)。

ジャガイモ飢饉自体は自然災害でしたが、それに対してイギリスは全く何の手も打たなかったため被害が拡大。 このジャガイモ飢饉によりアイルランドでは100万人以上が生命を落としたと言われています。

日本で言えば、沖縄県と日本政府の摩擦に近いものがあるかもしれませんが、このジャガイモ飢饉の例からも分かるように、その感情的な対立は沖縄の比ではないと思います。 

イギリスから独立する時にアイルランドは分裂 

それ以外にもさまざまな事件や紛争が中世から頻繁に起こり続けていたのですが、第一次世界大戦が集結した後の1919年、ついにアイルランド独立戦争が勃発。アイルランドはイギリスから独立することになりました。

ただ、この時にプロテスタントの人たちが多く住む北側はイギリス連合王国に残ることを選択したため、プロテスタントの国「北アイルランド」とカトリックの国「アイルランド共和国」に分裂することになったのです。

 

当然「これでめでたしめでたし」とはなりません。

南北が分かれたことでお互いの対立がさらに揉めることになるのです。

北がプロテスタント、南がカトリックとは言いましたが、そんなに綺麗に分かれるわけではありません。家族の事情や仕事の都合などで、カトリックでありながら北に留まる人もいれば、プロテスタントでありながら南に移住せざるを得なかった人もいます。

多分30代以上の人なら少し記憶に残っていると思いますが、以前のイギリスではIRA (北アイルランド共和軍)という集団がしょっちゅうテロを起こし、1970年代以降、延べ数百人の犠牲者が出ています。負傷者に関して言えば1万人以上と言われています。

 

なぜ北アイルランド問題が沈静化したのか?

このように北アイルランド問題は第二次大戦後どころか1990年代は大きな社会問題となっていました。ところが、1990年代後半から沈静化を見せます。

なぜでしょうか?

実はそれがイギリスのEU加盟だったのです。

イギリス、そして南アイルランドがEUに加盟するまで、当然北アイルランドと南アイルランドの間には国境がありました。いわゆる「物理的な国境」です。

しかし、両国がEUに加盟したことでその物理的な国境がなくなり、ある意味なし崩し的に対立が消えて行ったのです。

ただ、 それはあくまで表面的な話でしかなく、北アイルランドと南アイルランドの対立がなくなった訳ではありません。北アイルランドの首都であるベルファストという都市では、カトリック系住民とプロテスタント系住民が暮らす地区を隔てる「ピース・ウォール (平和の壁)」という壁がそびえ立っています。

また、小学校や中学校などもカトリックとプロテスタントで完全に分断されており、それぞれの宗派の子供が交わることはありません。

 

日本にニュースが飛び込んでくるようなテロ事件や暴動事件は発生しないものの、いまだに北アイルランドと南アイルランドの対立は解消されていないのです。

ただ、EUに加盟していることによって一応国境がなくなっているため、首の皮一枚で大きな混乱は回避されているというのが実情なのです。

 

イギリス連合王国がEUから離脱したらどうなるか?

ここまでを理解すると、「なぜイギリスのEU離脱問題が揉めているのか?」がわかります。

イギリス連合王国がEUから離脱すると、当然その自治領である北アイルランドもEUから離脱することになります。しかし、北アイルランドと陸続きでつながっている南アイルランドことアイルランド共和国はEUに留まったままです。

EUの中では物理的な国境はありませんが、EUとそれ以外の国の間では当然国境があります。したがって、普通に考えればイギリス連合王国がEUから脱退すると、イギリス連合王国の一部である北アイルランドとEUに継続して所属する南アイルランドの間に国境が復活してしまうのです。

 

またEU加盟前の北アイルランドと南アイルランドの“物理的な国境による分裂”が再現される。そうすると、また以前のような血で血を洗う抗争が勃発するのではないか・・・。これがイギリスのEU離脱が揉めている問題の中核なのです。

 

日本ではこの「国境問題」「宗教問題」ということがほとんど報道されることがないため、単なる政治家同士の駆け引きやEUとの経済協定の問題で揉めているようにしか認識されていないと思います。

それではこの問題の本質はいつまでも理解できません。

日本人が不得意な領土問題と宗教問題。これらを理解することではじめて今イギリスで何が起こっているのかを理解することができるのです。

 

 

今回も長文を最後までお読み頂きありがとうございました😆