Dive Into The World

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日米貿易の基本合意は「ずっとアメリカのターン」の証である。

既にいろいろな所で報道されている通り、日米首脳会談で日米貿易交渉で、安倍首相とトランプ大統領が“基本合意”したようです。

不謹慎を承知で書きますが、この「基本合意」という表現が実に面白いと思います。
というのは、この表現が今の日本とアメリカの関係性のほとんど全てを語っているからです。

それは一言で言えば

日米貿易とはずっとアメリカのターンであり、日本にはターンは回ってこない

ということです。

 

[目次]

 

発端はTPPだった

今回の自由貿易協定の話の前に確認ですが、この協議のそもそもの発端は例のTPPです。
アメリカがオバマ大統領の時に、日本のさらなる市場開放を求めて要求してきた自由貿易協定ですね。
一応、環太平洋ということになっていますが、貿易額から見ればアメリカと日本だけで8割以上を占めていましたので、事実上の日米(&その他大勢)貿易協定という内容でした。

そしてこれまたご存知の通り、何年間もかけて散々議論した挙げ句にトランプ大統領が「やっぱTPPやーめた」と言って抜けてしまった訳です。
大ボス (アメリカ)、小ボス (日本)、愉快な仲間たち(その他の国々)というチームだったのが、「小ボスと愉快な仲間たち」に縮小してしまった、ということです。


TPPが日米貿易交渉に与えた影響

アメリカというのは本当に「自由な国」ですので、前任のオバマ大統領が決めたことでも、大統領が変わってしまえば「俺、知らんし。」と言ってしまえるのですね。
オバマ大統領は一応地域ぐるみの経済協定を想定していたのですが、トランプ大統領は逆に「多国間協定なんて議論が複雑になって面倒くさい! 二国間でやった方が話がシンプルで良いじゃないか!」ということで、日本に対しても二国間の日米貿易協定を迫って来ました。

ただ、ずる賢いというか抜け目のないところは、「日本はTPPの時に関税引き下げや規制緩和を大胆に示したんだから、二国間協定でも同じことできるはずだよね? まさか他の国には関税引き下げるけど、アメリカには下げないとか・・・そんなこと言うはずないよね〜〜?」という脅しをかけてきたところです。
つまり、TPPに参加することになったことで、日本としては「これ以上は譲れない!」と言っていたTPPの水準から交渉スタート! となったわけです。
当然、アメリカからすれば、TPP水準よりさらに踏み込んだ緩和条件が引き出せて当たり前ってことです。

 

TPPは国内でも大揉めにもめたにも関わらず、「自由貿易の旗手としての役割を果たす」とか「中国包囲網だ」とか、さまざまな大義名分を無理やりくっつけることで、強引に国会を通過させました。
関係者も「やれやれだぜ・・・」と思っていたところに、アメリカ様は「さぁ、ここからが本番だぜ!」とやってきた。
それがTPPから日米貿易交渉に至る流れなのです。

 

異例のスピードで進んだ日米交渉

今回の交渉は去年の9月からスタートしてわずか1年未満で基本合意となりました。

通常こういう交渉は2,3年程度は掛けるのが一般的です。

実際、今回基本合意をした後も日本では国内の法整備が間に合わないのではないかという話も出ています(ちなみに、アメリカは大統領権限で何とでもなる)。

一体なぜそんなに急いで基本合意をしたのか?

 

それは

「来年始まる大統領選挙を戦いやすくなるようトランプ大統領の実績を作るため」
この一点です。

そして、日本側としてはそれによって「北朝鮮や中国から日本を守ってね、とトランプ大統領にしがみつくため」です。

 

確かに中国との貿易戦争で国内外から批判が相次ぐトランプ大統領にとって、このタイミングでの日本との取引成立は大きな、分かりやすい成果になります。

また新しくイギリス首相となったボリス・ジョンソン氏とトランプ氏は、ブレグジット後速やかに二国間で自由貿易協定を結ぶことになっています。
この二つの「実績」を武器にトランプ大統領は次期選挙を戦うのでしょう。

米中貿易戦争、イラン情勢の悪化、イスラエルへの過剰な肩入れなどなど・・・現在のアメリカの方針を批判する声は、国内だけでなく海外からも強く上げられています。

 

それらを跳ね返し再び大統領戦を勝ち抜くには、何としても目に見える形での実績作りが必要だったのです。
それは正に今回のG7サミットで初めて首脳宣言が出せないという異常事態にも関わらず、フランスのマクロン大統領がG7で合意したことを列挙したA4一枚のペラ紙を無理やり作って「これが実績だ!」と主張したのと同じです。

つまり、形はどうあれ「基本合意した」という事実によって、何とかアメリカの面子は保てた訳です。

ではその一方で日本は何を得たのでしょうか?

 

日米貿易交渉で日本が得たものは何か?

いきなり結論を言ってしまいますが、この日米貿易交渉で日本が得たものは何一つありません。むしろ失った物の方が多いでしょう。

むしろ日本はアメリカに従属する決意を見せるためには、我が国の食料安全保障を支える農産品を犠牲にしても良いのだという決断をしたと言えます。

 

確かに日本からアメリカへの輸出は工業品への関税が一部撤廃されることになりました。しかし、肝心の自動車関連商品の関税は現行のまま。
一応「継続審議」ということになっていますが、アメリカが「話し合うって。ちゃんと話し合うから。心配すんなって!」と言っておけば継続審議になる訳ですから、こんなものには何の意味もありません。


確かに自動車以外の工業品への関税が下げられるのは良いことかもしれませんが、相手はあのトランプ大統領です。

日本は異次元金融緩和によって大量の円を発行していますから、それをネタに「為替操作国認定」をちらつかせて、再度の貿易交渉や関税引き上げを迫られる可能性は十分に考えられます。

実際、首脳会談の後の記者発表の席で、トランプ大統領自身が「追加関税や数量規制については現在のところ考えていない。ただ、将来的にどうなるかは分からない。」とズバリ言ってしまっています。

 

だったら、同じことを日本も言えば良いじゃないか!
アメリカが強行な態度を取れば、日本も牛肉や大豆などの農産品への関税引き上げを行うぞと言えば良いと思われるかもしれません。

でも、無理なんですよ。
何と言っても最近やたら元気な北朝鮮という国が隣にいるにも関わらず、日本は自分自身の力で日本を守ることができません。
アメリカ様に守ってもらうしかないのです。
ですから、仮にアメリカが強硬な態度を取って来ても「もうちょっと妥協しますから、そんなに無茶言わないでください」と泣いて命乞いするしかない。
それが日本という国の実情です。


つまり、アメリカに日本の安全保障を握られている以上、どんな無茶を言われても日本はアメリカについて行くしかないのです。

 

「基本合意」という名の敗北宣言

安倍首相は「両国とも国益を守るために厳しい交渉を行っている」というような発言をしていましたが、アメリカと日本はそもそも対等の関係ではありません。

結局「アメリカ様に言いなりになっていると国民にバレないように、いかに“日本が必死に交渉している感”を演出するか」に一所懸命になっていただけだったのです。

そして、だからこその「基本合意」だったのです。

 

中身がなんであっても「基本的に合意した」という事実があれば、衆議院、参議院両方で過半数を占める与党からすれば、国内は何とでもなります。

どれだけ野党からの批判が出ようが

「詳細は交渉中」

「最低限の国益は守る」

「説明責任は果たす」

「自由貿易を守るためにこの協定は必要だ」

などなど・・・適当なことを言って国会の時間をやり過ごせば、アメリカ様の思いどりにことは運びます。

 

なぜなら政府には外交部門において専任権が認められているからです。

内閣、そしてその長である内閣総理大臣が外国の首脳と決めて来さえすれば、それを後から覆すことは事実上不可能です。

一応規定上は事後で国会承認が必要になりますが、アメリカ相手に「国会で否決されたから駄目でした。ごめんね〜!」などということが通じる訳がありません。

そもそもそんな度胸のある政治家はいないでしょう。

 

要するに二国間交渉に入った時点で、既に日本がアメリカの要求を全面的に飲まざるを得ないことは確定していたのです。

もっと言えば、その前段階のTPP交渉に参加した時点で日本の負けは決まっていたのです。

 

残念ながらそれが日本の実情です。

以前、評論家の中野剛志氏も仰っていましたが、TPP交渉に参加する時には、「交渉だけ参加すれば良い」「国益が確保できなければ脱退すれば良い」などと言っている能天気な人たちがいましたが、残念ながら「交渉に参加した時点で負け確定」。それが今の日本という国の実力なのです。 

 

そして、今回も「基本合意という名の敗北宣言」を受け入れざるを得なかった。

どのような言葉で取り繕おうが、それが今回の「日米貿易交渉の基本合意」の実態であるということを日本国民は受け入れなければなりません。

日本はもはやその程度の国に落ちこぼれてしまっている。それが偽らざる実態なのです。

 

アメリカとの全ての交渉においては“ずっとアメリカのターン”。

もはやこれが覆ることはない。

それを中途半端に「日本も粘り強く交渉している」なんて取り繕っても仕方ありません。

この屈辱的な現実を受け止めることから、日本はまずスタートしなければならないのです。

 

今回も長文を最後までお読み頂きありがとうございました😆