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D・アトキンソン著「日本人の勝算」。日本は最低賃金を引き上げろ!

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デービッド・アトキンソンという方をご存知でしょうか?

イギリス出身の経済評論家(と言って良いのかな?)です。

数年前に出した「新・観光立国論」という本がちょっと有名になったので、そのタイトルをご存じの方は多いかもしれません。そのデービッド・アトキンソン氏の新しい著作「日本人の勝算」を書き下ろされました。内容は

 

「人口減少、高齢化が進行する日本がさらなる発展を遂げるために今何をするべきか?」

 

という提言です。

今回はこの本のレビューをお届けします。

日本人の勝算: 人口減少×高齢化×資本主義

日本人の勝算: 人口減少×高齢化×資本主義

 

 

著者デービッド・アトキンソン氏の紹介

レビューの前にちょっとこのデービッド・アトキンソン氏の紹介をします。ご存知の方はすっ飛ばして頂いて結構ですww

 

さて、このアトキンソン氏、中々変わった経歴の持ち主です。

かの有名な金融投資グループ“ゴールドマン・サックス”でアナリストを務めた後、「マネーゲーム飽きたwつまんねーww」と感じて、日本で国宝・重要文化財の補修を300年以上手がける老舗企業に就職。30年以上日本で暮らし、日本文化にも精通。茶道の裏千家にて茶名「宗真」を拝受するなど、もしかしなくてもその辺の日本人よりも日本に詳しいかもしれません。

 

正直私はこの人の「観光立国で日本は蘇る」という主張は100%同意できないのですが、流石にゴールドマン・サックスでアナリストを務めていただけあって、経済指標の分析とそこから導き出す結論はかなり優れた物だと思います。

それと特記すべきはその「説明の分かりやすさ」ですね。

特に日本の場合ですが、経済評論って分かりにくい物が多いです。専門用語が多いとか、抽象論が多いとか色々理由はありますが。

 

その点アトキンソン氏は、西洋人だからこそかもしれませんが説明がシンプルで分かりやすいです。状況分析、原因分析、結論に至るまでの論旨がすごくしっかりしているので、難しい分析や概念の説明もあっけないくらい簡単に説明します。

「難しいことを書こう」としているのではなく、「分かってもらおう」として書いているのがよく分かります。こういう感覚はさすがに元アナリストというところでしょうか。「評論のための評論」ではなく、日本の経済力の衰退を防ぎ今一度再興するのが目的という目的意識がしっかりしているからでしょう。

 

前置きが長くなりましたが、サクッとレビューしてみましょう!

 

「日本人の勝算」はどこにあるか?

アトキンソン氏の主張は以前から、日本人労働者のレベルの高さは世界的にも非常に高いものだと評価する一方、それを活用できていない経営者のレベルの低さにこそ問題があるとしています。

そのような状況で、日本はこれから人口減少、高齢化という大きな課題が待ち受けている。今のままでは人口減少により日本経済の衰退は免れない。それを回避するためには

 

これから減少する人口で今まで以上の生産性を確保できるように、国や企業の政策を方針転換するしかない

 

と主張しています。

そして、そのためにこの著作で大きく取り上げている具体的方策は

日本の最低賃金の引き上げ

です。

  

日本は最低賃金の引き上げるべき

長く続くデフレで非常に安い賃金で、世界でもトップレベルの日本人労働者を雇える日本は経営者にとっては天国。いやむしろぬるま湯に浸かりすぎている。日本人労働者の能力に相応しいレベルまで最低賃金を引き上げるべきとしています。

 

経済学者や財界はよく「最低賃金を引き上げると雇用が失われる」と言われます。

また労働組合側も「賃金のベースアップよりも雇用を優先して妥結した」みたいなことを言います。

ですが、アトキンソン氏はこのような主張は全く根拠がないと斬り捨てます。理論的な部分はちょっとこのブログで取り上げるには複雑なので割愛しますが(興味がある方は是非本書をお読みください)、アトキンソン氏はイギリスで行われた最低賃金引き上げの実例をもって反論しています。

 

イギリスで最低賃金引き上げを行った結果

今の日本と同じく生産性の伸び悩みに悩んでいた1990年代のイギリスで、最低賃金の引き上げ政策が行われました。その時も同じように「最低賃金を引き上げると雇用が失われる」と反発があったそうです。

しかし、実際に最低賃金を引き上げても雇用が減少することはなく、むしろサービス業に関して言えば10%以上生産性が向上したとのこと。

このイギリスの例以外にもアメリカや他のヨーロッパの国などでは、最低賃金の引き上げによって生産性が向上すると結論付けている研究が多く、「最低賃金を引き上げたら雇用が減少する」というほど単純な話ではないとしています。

 

具体的に最低賃金をいくら上げるべきか

では、具体的には日本ではどれくらいまで最低賃金を引き上げるべきでしょうか。

この点に関してもアトキンソン氏は具体的な数字を示しています。

仮に経済成長の目標を年率0%だとしたとしても、今の経済規模を維持するためには2020年には1,291円、2030年には1,399円にまで引き上げる必要がある、と著者は記しています。

逆に言えば、最低でもこのラインまで賃金を引き上げなければ、日本の経済規模は縮小する一方だということです。

 

海外の研究によると、日本以外の国では労働者の質の評価と生産性には、かなり強い相関性があるのですが、日本だけが異常にその2つが乖離しています。これは本当に異常で、非常に高い質を誇る日本人労働者を不当に賃金が低いため、このような異常な乖離を起こっていると分析されています。

 

しかし、ぬるま湯に浸かりすぎている日本人の経営者が自主的に賃金を引き上げることなどありえない。だから最低賃金を引き上げることによって、政府主導で強制的に賃金の引き上げを行うべきだと著者は主張するわけです。

 

最後に

いかがでしょうか?

これから生産年齢人口の減少が起こる日本において、経済規模を維持するためには最低賃金の引き上げが必須であるというアトキンソン氏の主張。

私は仕事柄、海外の方とやり取りすることが多いのですが、正直日本人より極端に仕事の能力に差があるようには感じません(もちろんメチャクチャできる人もいますが、それは日本人でも同じです)。

それよりも普段感じるのは、海外の労働者はお金を投資して生産性が向上するなら、迷わずガンガンお金を使うということ。その反対に日本では「お金を使うくらいなら、人を安く買い叩け」という“マンパワー”や“根性論”で何とか乗り切ろうとする圧力が強いと感じます。

 

高度経済成長期やバブル期はそんな事はなかったはずですが、デフレになった平成以降は本当にお金を使うということを異常なまでに嫌がり、結局自分たちの首を締めているというのが日本の姿のように思います。

 

そんな日本にとって最低賃金の引き上げというのは、アトキンソン氏の言葉を借りれば「ショック療法」という意味合いが強いかもしれません。財界からの反発も強いでしょう。

ですが、今やらなければ日本という国自体がこれから立ち行かなくなっていく。逆に言えば、今やればまだ間に合うギリギリのところにいる。

イギリス人から発破をかけられるのも癪ですが(笑)、まだ日本にはできることがあるんだということを気付かされる貴重な提案がこの本には詰まっているのではないかと思います。

 

今回も長文を最後までお読み頂きありがとうございました😆