Dive Into The World

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学者の無責任な言論がデフレ脱却を妨げている

 

いきなりですが、質問です。

 

「貸し切り」と「貸し切り状態」。

似たような言葉ですが、この2つの言葉は何が違うでしょうか?

 

「貸し切り」というのは、文字通り居酒屋などのお店で特定のグループを貸し切って、他のお客さんは店内に入れない状態です。

一方、「貸し切り状態」というのは、特定のグループが店内のほとんどを占めているんだけど、他のお客さんも入れるような状態。ほぼ身内だけど、完全に貸し切ってはいない状態、それが「貸し切り状態」です。

 

似た言葉ですけど、「貸し切り」だと部外者は入れませんが、「貸し切り状態」なら部外者も入ることができますので、全然違いますね。

 

これと同じようなある種の"言葉遊び"で自分の政治的成果を、「成果がないのに、まるで成果があったかのように」見せる手法を用いている人がいます。学習院大学教授の伊藤元重という人物です。先日の日経新聞で伊藤氏が「デフレ呪縛脱却への努力を」というコラムを書いていました。

 

デフレは脱却してないけど、デフレ状態とは言えない???

このコラムの中で伊藤氏はこのような事を書いています。

 

「物価と賃金以外の経済データを見ると、デフレの時代とは経済環境が様変わりしているのがよく分かる。例えば、2012年ごろには0.9を切っていた有効求人倍率は、今や1.6を超える高さだ。物価や賃金以外では、デフレ的な経済環境とは到底言えない状況にある。

 

ほほー、なかなか面白いことを言いますね(笑)。

まず、デフレというと「物価が下がる現象」と思われがちです。だから今でも「デフレなら物価が下がるんだから良いことじゃん。」という人もいます。確かに物価が下がる"だけ"なら良い面もあるでしょう。しかし、これは全然違います。

デフレというのは「物価が下がる以上のスピードで、賃金が下がる現象」のことです。

したがって、デフレ下においては物価は確かに下がっているのですが、賃金がそれ以上に下がっているので、買える量が減ってしまうのです。お客さんが買う量が減れば、その分モノやサービスが売れる量も減りますので、生産者側から見れば売上が減ります。そうするとそこで働く人の賃金も下がります。そして増々モノやサービスが売れなくなる・・・・このようにして皆が貧乏になっていくのが「デフレ・スパイラル」です。

 

したがって、デフレというのは「物価や賃金の減少」のことなのです。

にも関わらず、この伊藤氏は 「物価や賃金以外では、デフレ的な経済環境とは到底言えない状況にある。」とか書いている訳です。物価や賃金以外の話を持ち出して"デフレ的な経済環境”とは言えないとか・・・何を言っているのか意味がわかりません。

ちなみに、姑息なことにこの伊藤氏は「デフレ的経済環境とは言えない」とは言っていません。あくまで「デフレ的経済環境とは言えない」と言っているだけなのです。あとで「お前、デフレじゃないと言っていたじゃないか!」とツッコまれた時に、「いや、私はデフレじゃないとは言ってませんよ。ちゃんと調べてください」という逃げ道を用意しているのです。

こういうずる賢さはさすが学者ですね。

 

デフレが脱却できない責任を民間に転嫁する無責任さ

さらにこの記事の中で伊藤氏は「デフレの呪縛から逃れられないのは、”経済”というよりは、”個別企業”なのだ。企業が賃金や価格を上げられないので、結果的に物価や賃金が十分に上がらないマクロ経済の状況が続いている」と書いています。

この伊藤元重という方は、石破元幹事長の経済ブレーンを務める方であり、2014年の消費増税の時には「消費増税の影響は軽微である。」と主張した財務省御用学者の一人です。しかし、消費増税以降、日本の経済はとてつもないダメージを負い、いまだに増税前の状態に立ち戻れないような状況です。2人以上の家計消費支出は増税前の2013年に比べ年間30万円近くも下がっているのが実情なのです。

 

その消費増税を推進し、立場的には完全に政権&財務省の側の人間が「デフレの呪縛から逃れられないのは、民間企業の責任だ」などと言ってのけている訳です。

正直、この人に学者としての矜持があるとはとても思えませんが、このような記事を平気で載せる日経新聞の側にも相当問題があると思います。

 

恐らく伊藤元重は自分の過ちを理解している。

ただ、このコラムをちょっとだけ評価するとすれば、それは下記の部分です。

「結局、賃金を大幅に上げられるか、それを可能にするような付加価値や生産性を高めるビジネスモデルに転換できるのかが問われる。(中略)むしろ『価格と賃金をどう上げるのか』が日本の企業の大きな課題で、それは日本経済全体にも重要な意味を持つものである。」

これ自体はその通りなのです。

民間企業が賃金を大幅に上げ、国民が景気回復を実感できるような状況を生み出せるか・・・それが日本経済全体にとって非常に重要な意味を持つのは間違いありません。

 

ただ、問題はこのデフレ環境においては、それを全て民間企業に任せるのは無理がある、ということです。デフレ環境においては国民が貧困化し続けるので、モノやサービスの購入量が減ります。そのような状況で民間企業が賃上げに踏み切ること、それを可能にするような付加価値向上を実現するのはなかなか難しいです(「だからやらなくて良い」という意味ではありません)。

 

だからこそ、日本政府が率先して公共事業拡大による投資を行わなくてはなりません。日本円を発行できる日本政府に関しては「財政破綻」などということは理論的にあり得ませんので、国民や民間企業にその効果が波及するまでどんどんお金を使い続けるのが正しい政策なのです。

お金とは世の中を回って初めて意味を持つものなのですから、誰かがお金を使わなければお金は回りません。回らないお金はただのゴミです(現代の場合はただの”電子データ”ですね)。

 

それにも関わらず政府は「お金を使わない」ことを美徳とし、ましてや2014年には国民に負担を強いる消費増税を実行しました。そして今年も実行しようとしています。

 

民間企業が賃金を上げられるかどうかが重要だと分かっているのであれば、

 

・民間企業が賃金を上げられる環境作り

・企業内に溜め込まれた社内留保を吐き出させるような制度づくり

 

こそ日本政府が行わければならない。

「デフレ的な経済環境とは言えない」などという言葉遊びをしている暇があったら、少しでも政府に働きかける努力をするのが学者の矜持というものではないのでしょうか?

 

 

今回も長文を最後までお読み頂きありがとうございました😆