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「自由貿易が善で、保護貿易が悪」? 歴史はむしろ逆である。

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2016年にトランプ氏がアメリカ大統領に就任して以来、「保護貿易は悪でありあってはならない。自由貿易を推進することが世界を平和に導くのだ」という風潮が一層強くなりました。

ですが、この「自由貿易=善、保護貿易=悪」には実証的な根拠は何もありません。単なるイメージあるいは思い込みなのです。今日はそんな思い込みを覆すような話をしてみたいと思います。

 

マクドナルドのあるところに戦争はない。

さて、この「マクドナルドのあるところに戦争はない。」という説をご存知でしょうか? これはトーマス・フリードマンというアメリカのジャーナリストが「レクサスとオリーブの木」という本の中で提唱した仮説です。

マクドナルドのような多国籍企業はできるだけ投資のリスクを避けようとします。したがって、戦争や内乱などの社会的な混乱が始まってしまえばリスクを避けて投資を引き上げてしまいます。

そのため多国籍企業はそもそも戦争が起こるような地域には投資をしませんし、投資先の国もそのような企業に逃げられるのを恐れて戦争をしなくなります。ですから、マクドナルドや、今で言えばアマゾンなどのグローバルに活動する企業が存在する地域では、戦争が起こらない。むしろ、そのような企業がいるから戦争が防止されている・・・そのような説がこのフリードマンの主張です。

 

また、そのフリードマンの説とは別に、よく世間では「第二次世界大戦は各国が保護貿易ブロック経済に走ったから、つまり自分もの国を守るために国境の壁を高くしたから争いがヒートアップした結果起こったのだ」と言われます。だからこそ"世界の平和のためにこそ"国境はできるだけ低くしなくてはならないのだ。いやむしろ国境はなくすべきなのだ、とまで言われます。

 

どちらも一見、もっともらしい説に聞こえますが、残念ながらこの仮説が実証されたことはありません。むしろ歴史的に見れば、「自由貿易こそが戦争や社会の混乱を引き起こす」という方が正しいのです。

 

我々のイメージとは全く違う第一次世界大戦"前夜"の様相

「ロンドンの住民は、ベッドで朝の紅茶をすすりながら、電話で全世界のさまざまな産物を、彼が適当と思う量だけ注文することができた。同じように、彼は自分の富を世界の天然資源や新事業への投資にすきなように振り向けることができたし、少しも心を煩わせることなく、その果実や利益の分け前に与ることができた。

(中略)

そして何よりも重要なのは、彼がこのような事態を正常で確実で、一層の改善に向かうものとみなし、それからの乖離はすべて上記を逸したけしからぬもの、そして回避可能なものとみなしていたということだ。」

 

これは20世紀を代表する経済学者であるジョン・メナード・ケインズが、1919年にその著書「平和の経済的帰結」の中で記した一文で、"第一次世界大戦が起こる前"の社会の雰囲気を書き記したものです。

第一次世界大戦という悲劇が起こったことを知っている現代の私達のイメージでは、戦前というのは何かこう、「もう明日にでも戦争が起こりそうな不穏な空気が流れていた」と漠然と考えてしまいます。しかし、実際にはケインズが書いているように、まさかそのような事が起こるとは誰も予想していなかった。現在の繁栄が正常かつ確実なもので、これより良くなることはあっても悪くなるなどとは誰も考えていなかったのです。 

 

当時は現代以上のグローバル社会だった

意外だと思いますが、大戦前の19世紀末から20世紀初頭というのはグローバル化・・・すなわちモノ、サービス、人、お金、そして何より情報が一気に国境を超えて"自由な移動が爆発的に増えていった時代だった"ということです。

19世紀末に電話が発明され、たった電話一本で世界中の商品を売り買いすることができましたし、人の移動に当たっては何と19世紀末から第一次世界大戦勃発までの間に3,000万人以上の移民がヨーロッパから世界中へ移動していったのです。

 

もし本当に「マクドナルドのあるところに戦争はない。」が正しく、自由貿易こそが正しく保護貿易は悪なのだとしたら、そのような超グローバル化の20世紀初頭という時代に世界的な戦争が起こるはずがありません。

しかし、現実に戦争は起こってしまいました。それもかつて人類が経験したことがないほどの大規模な世界大戦が起こってしまいました。それが現実です。

 

何が世界大戦を引き起こしたか

もちろん自由貿易だけが世界大戦を引き起こした唯一の原因だ、とまで言うつもりはありません。実際に戦争を引き起こしたのには様々な理由が考えられていて、今でも「これだ」という結論が出ている訳ではありません。人間の歴史をたった一つの要因に落とし込めるほど簡単な話ではないでしょう。

しかし、一つ言えることはこのような超グローバル化によって、富裕層と貧困層の二極化が起こり、それが社会の混乱と不安定化を引き起こしたことが一定の影響を与えたのは間違いないということです。

 

20世紀、特に戦後に活躍した自由貿易に鋭いメスを入れたカール・ポランニーという経済学者がいます。

ポランニーによると19世紀末は人、モノ、金、情報の移動が相当自由になっていて、世界レベルでのグローバル化が進行していました。そのグローバル化によって世界は二極化が進行。その流れの中で、正に現代のようにかつて国民を守っていて社会共同体が破壊されて個人がバラバラにされ、一人ひとりが"自己責任論"のもと社会の荒波と直接対峙しなくてはならなくなりました。

当然そこには一部の勝者が生まれますが、ほとんどの人が敗者に転落します。そして、一度敗者に転落したらそこから這い上がることはほとんど不可能な状況になります。

 

そのようなグローバル化の中で敗者として社会から見捨てられた人たちが、自分や自分の家族、そして社会を守るために団結してグローバル化への対向運動を始める・・・それが極端な形に行き着いたのがファシズムやナチズムでした。

一度敗者の側に落ちたら二度と這い上がれない。そのような絶望の底にある人々の憤懣を「革命」「社会主義」という形での受け皿になったのがファシズムだったのです。

 

今まさに私達が体験しているように、自由貿易という名のグローバル化は富裕層には中間層から富を吸い上げ、より多くの利益を獲得していくことで、中間層を貧困層に、そして貧困層をさらなる貧困層へと叩き落とし、社会の富の分断を引き起こします。

「自由」という美しい言葉の下に行われれば全てが正しいかのように思われますし、「自由のため」と言われればそれに面と向かって反論するのは、相当強い心臓がなければ難しいです。しかし、そのような「自由という権力」に笠を着た横暴こそが、実は今のこの世界の混乱を引き起こしている・・・そのような実態があること。そして、それと同じことが世界大戦の前にも起こっていたということを今一度私達は再認識するべきではないでしょうか。

 

今回も長文を最後までお読み頂きありがとうございました